ミクロラスボラ・ブルーネオンの全て：生態から飼育までを徹底解説

第1章：発見、分類、および進化学的背景

本章では、ミクロラスボラ・ブルーネオン（学名：Microdevario kubotai）の学術的なアイデンティティを確立し、その発見から現在の生物系統樹における位置付けまでの経緯を詳述する。魚類分類学の動的な性質を浮き彫りにし、本種に関連する広範な進化学的概念を導入する。

1.1. 1999年の記載：アンダマン海流域からの新種

ミクロラスボラ・ブルーネオン（Microdevario kubotai）は、1999年に著名な魚類学者であるモーリス・コテラット（Maurice Kottelat）とK.E.ヴィッテ（K.E. Witte）によって、科学の世界に初めて公式に紹介された。当初、本種はMicrorasbora属に分類され、学名はMicrorasbora kubotaiとされた。

その模式産地は、タイ半島西側のアンダマン海に注ぐ水系に位置するラノーン県のクローン・プラエ・サイ（Khlong Phrae Sai）であることが明記されている。この地理的な特定は、本種が適応してきた特有の生態的ニッチを理解する上で極めて重要である。

興味深いことに、本種はミャンマー産の別の小型コイ科魚類、Microrasbora nana（現在のMicrodevario nana）と同時に記載された。これは、当時の東南アジア地域において、小型コイ科魚類の発見が活発に行われていたことを示唆している。

種小名であるkubotaiは、タイ在住の日本人観賞魚輸出業者である久保田勝間氏に献名されたものである。これは、学術的な発見の過程において、観賞魚取引業界が果たす重要な役割を物語っている。商業的な採集者は、しばしば学術調査隊よりも先に未知の生物に遭遇する機会を持つ。久保田氏による標本の提供や現地での協力が、本種の科学的記載に不可欠であったことが、その名前に刻まれている。この事例は、商業活動と基礎科学との間に存在する、時に見過ごされがちな共生関係を明確に示している。観賞魚取引が新たな生物を光の当たる場所へと導き、科学者がそれを正式に記載するという連携が、ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）がタイの小川から世界の学術文献とアクアリウム市場へと至る道のりを加速させたのである。

1.2. 分類学的再検討：Microdevario属の設立

記載から10年後の2009年、ファング（Fang）らによる分子系統学的研究が、本種の分類に大きな転機をもたらした。この研究により、従来のMicrorasbora属が多系統群であること、すなわち、その属に含まれる種が単一の共通祖先を共有していないことが遺伝子データによって証明された。

この結果を受け、M. kubotai、M. nana、およびM. gatesiを収容するための新しい属としてMicrodevarioが設立された。この再分類は、単なる形態的類似性ではなく、遺伝子情報に基づいたより正確な進化的関係の理解を反映したものである。小型で細身のコイ科魚類は、異なる系統に属していても外見が似通う「収斂進化」の典型例であり、分子解析はこうした分類学上の長年の難問を解決する強力なツールとなった。

ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）の学名がわずか10年で変更された事実は、DNA解析がいかに魚類分類学を急速に進展させているかを示す好例である。

新属名Microdevarioは、ギリシャ語で「小さい」を意味する「mikros」と、近縁の属名であるDevarioを組み合わせた混成語である。この名前は、本属の魚が小型であることと、より大型のダニオであるDevario属と系統的に近縁であることを明確に示しており、学術的に非常に情報価値が高い。

1.3. ダニオ亜科における系統学的位置付け

ミクロラスボラ・ブルーネオン（Microdevario kubotai）は、分類学上、コイ目（Cypriniformes）、ダニオ科（Danionidae）、ダニオ亜科（Danioninae）に確固として位置付けられている。これにより、本種はゼブラダニオ（Danio rerio）やデヴァリオ属（Devario）などの著名な魚種と近縁な、正真正銘の「ダニオの仲間」であることがわかる。

一方で、アクアリウム業界で広く使われている「クボタイ・ラスボラ」という通称は、分類学的には誤称である。真のラスボラ（Rasbora属など）は、コイ科の中でも異なる系統に属する。この区別は、本種の生物学、行動、そして進化の歴史を正しく理解するための基本となる。

1.4. 進化戦略：コイ科魚類における小型化現象

成魚でも標準体長が20 mm未満であるミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）は、「小型化（miniaturisation）」と呼ばれる進化現象の顕著な一例である。小型化はコイ科魚類において繰り返し見られる進化の道筋であり、著しく小さな体サイズで性的に成熟することを特徴とする。

この進化戦略は、多くの場合、特定の生態的ニッチへの適応と関連している。例えば、流れの穏やかな源流域や、栄養が乏しい、あるいは構造的に複雑な環境（森林の泥炭湿地など）が挙げられる。小型化は、魚の生物学全体に多大な影響を及ぼす。骨格構造の単純化、繁殖戦略の変化（例えば、親による保護行動を伴わない卵のばら撒き）、そして微小な獲物に特化した食性（微小捕食者）などがその典型的な帰結である。

第2章：生物学的および生態学的プロファイル

本章では、本種の物理的特徴、自然分布域、そして適応してきた特有の環境条件について詳述する。これにより、独自の生態的ニッチの産物としてのミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）の全体像を描き出す。

2.1. 形態的特徴、同定、および性的二形

外見：小型で細長い体型を持つダニオの仲間。透明感のある体を持ち、光の当たり方によってメタリックな緑色から黄緑色に輝く強い虹色の光沢が特徴である。この色彩は、照明の条件や魚の状態によって青みがかって見えたり、黄色みがかって見えたりすることがある。

サイズ：最大標準体長は一般的に1.9 cmから2.0 cmとされている。しかし、アクアリウムで飼育された個体は、豊富な栄養と安定した環境下で最大3.5 cmに達することもあると報告されている。この差は、飼育下での成長促進や、測定方法の違い（標準体長か全長か）に起因する可能性がある。

性的二形：雌雄の差は微妙であるが、オスはメスに比べてより色彩が鮮やかで、体型が細い傾向がある。一方、メスはわずかに大きく、特に繁殖期には腹部が丸みを帯びる。この性的二形は、繁殖行動が活発になるにつれてより顕著になる。

2.2. タイとミャンマーにおける地理的分布と自然生息地

原産地：その分布域は東南アジアに限定されており、具体的にはタイ半島のラノーン県およびパンガー県と、それに隣接するミャンマーのアタラン川流域である。これらの地域はすべてアンダマン海に注ぐ水系に属している。

移入個体群：タイ西部のクウェー・ノイ川水系の一部であるソンガリア川において、移入個体群の存在が記録されている。これは本種がある程度の適応能力を持つことを示唆する一方で、外来種が在来生態系に与える影響についての懸念も提起する。

2.3. ビオトープ分析：清流に棲む者の生態

生息環境タイプ：流れが穏やかから中程度の、溶存酸素が豊富な透明な源流域や小さな支流に生息する。これは、後述するブラックウォーター（黒水）に生息する種との決定的な違いである。

水質：水は通常、軟水で、pHは中性から弱酸性（pH 6.0-7.0）の範囲である。

底質と構造：川床は砂、砂利、岩、そして玉石で構成され、所々に落ち葉が堆積した場所や、岸辺の植物の根、水中に沈んだ流木などが見られる。

植生：水中植物や岸辺の植物が豊かに繁茂する環境が特徴であり、これらの植生は本種にとって重要な隠れ家となっている。

共存種：自然生息地では、同じく清流に適応した他の種と共存している。例えば、特定のBatasio属（ナマズの仲間）、Badis属、Rasbora属、Schistura属（ドジョウの仲間）などが挙げられる。これらの生物群集は、本種の生態的ニッチをさらに明確に定義するものである。

本種の生活史全体が、この透明で流れがあり、植生の豊かな源流域の環境への直接的な適応の結果であることは明らかである。両者の間には、緊密な共進化関係が存在する。例えば、溶存酸素が豊富な清流という環境は、活発な群泳行動を支える高い代謝率を可能にする。その食性は微小な無脊椎動物であり、このような清浄で構造的に複雑な河川環境にはそれらが豊富に存在する。輝く緑色の体色は、水草の間を縫って差し込む木漏れ日の中で、カモフラージュや群れを認識するための信号として機能している可能性が高い。中性から弱酸性の水質を好む性質は、有機物の溶出が多い泥炭湿地とは対照的に、鉱物性の底質の上を流れる河川の典型的な特徴である。このように、生理機能から行動パターンに至るまで、本種のあらゆる側面がこの特定のビオトープを反映しており、アクアリウムでの飼育においてビオトープを忠実に再現することが、単なる審美的な選択ではなく、本種が健全に生息するための生物学的な必須要件であることを示している。

2.4. 自然界での食性、社会行動、および繁殖戦略

食性：マイクロプレデター（微小捕食者）であり、生息地内で見られる小さな無脊椎動物、動物プランクトン、昆虫の幼虫、そしておそらくは藻類などを捕食する。その小さく、わずかに上向きの口は、この捕食戦略に適応している。

社会行動：非常に社会性が高く、群れを形成する種である。自然界では、通常20匹から50匹の個体からなる群れで見られる。この群泳行動は、捕食者に対する主要な防御メカニズムであり、本種の健全な生活に不可欠である。

繁殖戦略：卵をばら撒くタイプの産卵形態をとり、親による子の保護は行わず、細かい葉を持つ水草の茂みの中に卵を産み付ける。これは小型化したコイ科魚類に共通して見られる戦略であり、個々の卵への投資を最小限に抑えつつ、拡散を最大化するものである。

2.5. 保全状況と個体群の動向

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストにおいて、ミクロラスボラ・ブルーネオン（Microdevario kubotai）は2011年から2012年の評価で「低懸念（Least Concern, LC）」に分類されている。

この評価は、現時点では本種が絶滅リスクの高いカテゴリーに分類されるほどの広範な脅威に直面していないことを示唆している。その分布域は広大ではないものの、個体群は比較的安定していると考えられる。しかし、東南アジアの他のすべての淡水生物と同様に、局所的な生息地の破壊や水質汚染に対して脆弱であることに変わりはない。

興味深いことに、本種の「低懸念」という保全状況は、その生息環境のタイプと密接に関連している。本種が生息する源流域は、他の人気のナノフィッシュが生息する泥炭湿地生態系に比べて、現在のところ危機的状況の度合いが低い。例えば、泥炭湿地のスペシャリストであるSundadanio axelrodiは「危急（Vulnerable, VU）」と評価されている。東南アジアの泥炭湿地林は、パーム油プランテーションなどの農地開発による森林破壊の深刻な脅威に晒されていることが知られている。源流域もまた脅威に無縁ではないが、泥炭湿地の破壊の規模はより壊滅的である。したがって、これらの魚の保全状況は、それぞれの生態系の健全性を示す直接的な生物指標として機能する。両種の分類学的な混同は、アクアリストが脅威に瀕しているSundadanioを、普通種で安全なミクロラスボラ・ブルーネオンと誤認し、保全への意識を低下させる危険性をはらんでいる。

第3章：比較生物学的分析

本章は、ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）を人気のある観賞魚という広い文脈の中に正しく位置付ける上で極めて重要である。アクアリウムの趣味の世界で頻繁に見られる混同点を直接的に取り上げ、科学的データを用いて、しばしば同一視されがちな種間に明確な境界線を引く。

3.1. アイデンティティの明確化：ミクロラスボラ・ブルーネオン vs. アクセルロディ・ブルー

この比較は、本種を理解する上で最も重要な点である。両種は外見が似ているためアクアリウム市場で混同されることがあるが、生物学的には全くの別物である。

分類学的な隔絶：ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）はダニオ科（Danionidae）に属するダニоの仲間である。一方、Sundadanio axelrodi（通称：アクセルロディ・ブルー）は、全く異なるスンダダニオ科（Sundadanionidae）に分類される。両者は近縁ではなく、小型の体型という共通点は、異なる系統が類似の環境に適応した結果生じた収斂進化の一例に過ぎない。

形態学的・生物学的差異：表面的な色彩を超えて、両者には決定的な違いが存在する。特に顕著なのは、Sundadanio属のオスが持つ特異で複雑な発音器官である。これは変形した肋骨と胸帯の筋肉からなり、威嚇時や興奮時に「クークー」という聞き取れる音を発することを可能にする。この驚くべき特徴は、Microdevario属には存在しない。

分布域の分離：ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）は東南アジア大陸部（タイ、ミャンマー）を原産地とする。対照的に、S. axelrodiはスンダ列島（ボルネオ島、スマトラ島、ビンタン島）に分布する。両者の自然分布域は重なっていない。

3.2. 生態学的な分岐：清流と黒水の生息環境の比較

両種の生態的ニッチの違いは、その分類学的な隔たりと同様に大きい。

清流のニッチ（ミクロラスボラ・ブルーネオン）：前述の通り、本種は透明で流れがあり、溶存酸素が豊富で、pHが中性から弱酸性の河川に生息し、豊かな植生を好む。この環境は、特有の水質化学と食物網を持つ。

黒水のニッチ（S. axelrodi）：この種は、古代の泥炭湿地林に生息する極端なスペシャリストである。水は腐植質から溶け出したタンニンによって濃い茶色に染まり（ブラックウォーター）、pHが4.0にまで低下する強酸性で、極めて軟水である。この環境は薄暗く、溶存酸素量も比較的低い。これらは根本的に異なる生態系であり、それぞれが異なる生理学的適応を要求する。

3.3. 「ナノフィッシュ」カテゴリーにおける文脈：Danio margaritatusおよびBoraras属との比較

Danio margaritatus（ミクロラスボラ・ハナビ）：ミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）の近縁種であり、同じくダニオの仲間である。ミャンマーの高地に位置する、植生の豊かな浅い池を原産地とする。ミクロラスボラ・ブルーネオンの生息する流水域とは異なり、より止水的な環境に適応している。両種ともに温和な群泳性の魚で、水草レイアウト水槽に適している。

Boraras brigittae（ボララス・ブリジッタエ）：人気の高い別のナノフィッシュだが、ダニオの仲間ではない。S. axelrodiと同様に、ボルネオ島原産のブラックウォータースペシャリストであり、軟水で酸性の泥炭湿地環境に適応している。したがって、その飼育要件はミクロラスボラ・ブルーネオンよりもSundadanioに類似する。

Paracheirodon innesi（ネオンテトラ）：小型の群泳性魚の代表格であるが、コイ目ではなくカラシン目（Characiformes）に属する。南米のブラックウォーターおよびクリアウォーターの河川を原産とし、軟水で酸性の水質を好む。生態的には収斂している側面もあるが、進化的に遠縁であるため、その生物学は根本的に異なる。

これらの比較は、単に「小型で美しい魚」という大雑把なカテゴリーでこれらの種を扱うことの危険性を示している。正確な同定と、それぞれの種が持つ固有の進化的背景および生態的要件の理解は、適切な飼育と保全への意識向上のために不可欠である。

表1：人気の小型コイ科魚類の比較マトリクス

以下の表は、本章で議論された主要な小型魚種の分類学的、生態学的、および飼育上の重要な違いを要約したものである。この表は、表面的な類似性の下に隠された根本的な差異を視覚的に明確にすることを目指している。

特徴	ミクロラスボラ・ブルーネオン (Microdevario kubotai)	アクセルロディ・ブルー (Sundadanio axelrodi)	ミクロラスボラ・ハナビ (Danio margaritatus)	ボララス・ブリジッタエ (Boraras brigittae)
科	Danionidae	Sundadanionidae	Danionidae	Danionidae
原産地	タイ、ミャンマー	ボルネオ、スマトラ	ミャンマー	ボルネオ
ビオトープ	清流（クリアウォーター）	泥炭湿地（ブラックウォーター）	植生の豊かな池	泥炭湿地（ブラックウォーター）
適正pH	6.0 – 7.5	4.0 – 6.5	6.5 – 7.5	4.0 – 7.0
適正硬度	軟水〜中硬水	極軟水	軟水〜中硬水	極軟水
社会行動	強い群泳性	強い群泳性	群泳性	群泳性
IUCN評価	低懸念 (LC)	危急 (VU)	データ不足 (DD)	低懸念 (LC)
主要な特徴	メタリックグリーンの体色	オスは発音可能	真珠のような斑点模様	鮮やかな赤色の体色

第4章：アクアリウム趣味と産業における役割

本章では、科学的および生態学的データを、アクアリストや業界関係者のための実践的で実行可能な情報に変換する。多様な商業的および趣味的情報源から得られたベストプラクティスを統合する。

4.1. 観賞魚取引への導入と世界的な流通

本種はアクアリウム市場において、「ミクロラスボラ・ブルーネオン」という名前で最も広く知られています。学術的にはMicrodevario kubotaiとされますが、他にも「グリーンネオン・ラスボラ」、「イエローネオン・ラスボラ」、「クボタイ・ラスボラ」といった通称で流通することもあります。この名前の多様性が、他の種との混同を助長する一因となっています。本稿では、最も一般的な呼称である「ミクロラスボラ・ブルーネオン」を主として使用します。

現在、本種は世界中の観賞魚市場で広く入手可能である。特筆すべきは、流通する個体の多くが野生採集個体ではなく、商業的に繁殖されたものであるという点である。これにより、野生個体群への圧力が軽減されると同時に、飼育環境により適応した頑健な個体が供給されるという利点がある。

4.2. アクアリウムにおける飼育のベストプラクティス

水槽サイズ：最低でも10ガロン（約35-40リットル）の水槽が小規模な群れに推奨される。水質の安定性や十分な遊泳スペースを確保するためには、より大きな水槽が望ましい。

水質パラメータ：水温は22-27°Cの範囲で安定させることが重要である。pHは6.0から7.5の範囲（中性から弱酸性が最適）に維持し、水質は軟水から中程度の硬度が適している。

ろ過と水流：原産地の清流環境を反映し、清浄で溶存酸素が豊富な水を必要とする。穏やかから中程度の水流は好ましいが、強すぎる水流は避けるべきである。安定した水質が最も重要であり、生物学的ろ過が十分に機能していない未熟な水槽への導入は絶対に避けるべきである。

水槽レイアウト：暗色の底床材を使用し、水草を密に植えたレイアウトが理想的である。これは自然環境を模倣し、魚に安心感を与え、その美しい体色を最大限に引き出す効果がある。浮草は光を和らげるのに役立つ。同時に、群れが自由に泳ぎ回れるオープンスペースも確保することが重要である。

4.3. 栄養要求と飼育下での給餌法

食性：雑食性であるが、肉食性の傾向が強いマイクロプレデターである。

餌の種類：高品質な乾燥飼料（細かく砕いたフレークやマイクロペレット）も受け入れるが、その健康と色彩を維持するためには、多様な餌を与えることが不可欠である。ミジンコ、アルテミア（ブラインシュリンプ）、マイクロワーム、シクロプスなどの小型の活餌や冷凍餌を定期的に与えるのが最も効果的である。

4.4. コミュニティ水槽における社会性と適切な混泳相手

群泳の必要性：本種は必ず群れで飼育する必要がある。最低でも6匹から8匹、理想的には10匹から20匹以上の群れで飼育することが、魚の福祉にとって絶対条件である。これにより、ストレスが軽減され、自然な行動が促進される。

気性：非常に温和で臆病な性質を持つ。

適切な混泳相手：餌の競合で負けないような、同じく小型で温和な種との混泳に適している。好ましいタンクメイトとしては、他の小型ラスボラ（Trigonostigma属、Boraras属）、小型テトラ、ピグミーコリドラス、そしてミナミヌマエビなどのNeocaridina属のエビや貝類が挙げられる。大型魚や活発すぎる魚との混泳は避けるべきである。

4.5. 飼育下繁殖の技術と留意点

繁殖の誘因：活餌や冷凍餌を豊富に与えてコンディションを整えることで、繁殖を促すことができる。

方法：卵をばら撒くタイプであるため、繁殖を本格的に狙う場合は、親魚とは別の繁殖用水槽を用意するのが効果的である。この水槽は薄暗くし、卵が付着・隠れるための細かい葉を持つ水草（例：ジャワモス）や産卵モップを豊富に入れる。

産卵後の管理：親魚は卵や稚魚を保護せず、逆に捕食してしまうため、産卵が確認されたら速やかに親魚を繁殖水槽から取り除く必要がある。

稚魚の育成：卵は水温にもよるが、通常24時間から72時間で孵化する。孵化後数日で稚魚は遊泳を始め、初期飼料としてインフゾリアや液体フードなどの微細な餌を必要とする。成長するにつれて、ブラインシュリンプの幼生などに切り替えていく。

4.6. 飼育下における注目すべき行動と健康

導入時の繊細さ：本種は、輸入直後や新しい水槽への導入時に特にデリケートな側面を見せることがある。これは、原産地の清浄な環境とは対照的に、輸送中の劣悪な水質によるストレスが原因である可能性が高い。一度、安定した清浄な水槽環境に適切に適応すれば、非常に丈夫な魚となる。この「導入のハードル」を理解することが、飼育難易度の評価を左右する。健全な個体を成熟した水槽に導入するアクアリストにとっては「容易」であり、ストレスを受けた個体や未熟な水槽に導入するアクアリストにとっては「難しい」魚となる。

「死んだふり」行動：ある飼育者の報告によると、水槽の移動後や強いストレスを受けた際に、魚が底でひっくり返り、死んだかのように動かなくなるという特異な行動が観察されている。しかし、しばらくすると何事もなかったかのように回復するという。これは逸話的な情報であるが、アクアリストが健康な魚を誤って処分してしまうのを防ぐための貴重な知見である。

第5章：学術的および広範な産業的意義

本章では、アクアリウムという枠を超え、本種が科学研究において果たす役割や、趣味の世界に届けられるまでの供給網の構造について探求する。

5.1. 研究対象として：進化発生生物学のモデルとしてのMicrodevario

Microdevario属は、観賞魚としての価値だけでなく、ダニオの仲間における顎の力学と発生の比較研究において、学術的な対象となっている。

具体的には、ある研究において、顎の突出能力がほとんどないMicrodevario属の成魚の前上顎骨の形態が、発生初期の幼魚や甲状腺機能が低下したゼブラダニオ（Danio rerio）の成魚のそれと類似していることが示された。

この事実は、Microdevarioが科学者にとって貴重な「自然の実験」であることを意味する。生物学における主要なモデル生物であるゼブラダニオの特殊化した顎の構造を理解するために、Microdevarioのような近縁種は完璧な比較対象となる。甲状腺ホルモンによって制御されるような発生経路が、進化の過程でどのように変化し、自然界に見られる驚くべき形態の多様性を生み出してきたのかを解明する上で、本種は重要な手がかりを提供している。このように、アクアリウムで親しまれている魚が、基礎生物学の根源的な問いに答えるための重要な役割を担っているのである。

5.2. 観賞魚の供給網：野生採集個体 vs. 商業繁殖個体

本種が観賞魚市場に登場した当初、その供給はすべてタイとミャンマーの野生個体群の採集に依存していた。しかし、現在では商業規模での繁殖が成功裏に行われている。この変化は、いくつかの重要な意味を持つ。

持続可能性：野生個体群への採集圧を大幅に軽減し、種の長期的な保全に貢献する。

個体の健康：商業的に繁殖された個体は、ストレスの多い輸送を経た野生採集個体に比べて、水槽環境に予め適応しており、寄生虫を持つ可能性も低く、一般的に頑健である。

供給の安定性：季節や地域の採集状況に左右されることなく、世界市場に対してより安定した一貫性のある供給を保証する。

ミクロラスボラ・ブルーネオン（Microdevario kubotai）は、野生採集による新奇な種が、持続可能な形で生産されるアクアリウム産業の定番種へと移行した成功例と言える。これは、観賞魚取引における理想的なモデルである。すなわち、魅力的で新しい種が発見され、その飼育下繁殖技術が確立され、商業的な供給体制が整うことで、野生個体群を過剰な採集から保護するという流れである。これは、繁殖が困難で野生採集に依存し続ける他の多くの種とは対照的である。

第6章：総括と補足情報

本稿の最終章として、これまでの分析で得られた主要な知見を要約し、本種にまつわる語源や歴史的な背景など、文脈を豊かにする興味深い情報を補足する。

6.1. 主要な特徴と意義の要約

ミクロラスボラ・ブルーネオン（Microdevario kubotai）は、東南アジア大陸部の清流に生息する、小型化したダニオ科の魚類である。その分類学的位置付け、生態、そして飼育要件は、Sundadanio属やBoraras属のようなブラックウォーターのスペシャリストとは根本的に異なるため、正確な同定が極めて重要である。

本種は、持続可能な形で生産される人気の観賞魚としてアクアリウムの世界で確固たる地位を築くと同時に、進化発生生物学の研究において貴重な知見を提供する学術的対象としての二重の重要性を持っている。

6.2. 語源に関する注記とその他の雑学的要素

種小名kubotai：本種の種小名は、サイアム・ペット・フィッシュ・トレーディング社のマネージング・ディレクターである久保田勝間氏への献名である。これは、彼が現地調査において多大な協力を行い、貴重な標本を提供したことへの謝意を表している。この事実は、魚類学上の発見が、しばしば学術界と商業セクターとの協力によって成し遂げられることを示している。

接尾辞「i」：学名において男性個人に献名する場合、その名前の語尾にラテン語の所有格を示す「-i」を付けるのが慣例である（例：Kubota → kubotai）。もし献名対象が女性であれば、「-ae」が用いられることが多い。これは、生物の学術命名法である二名法の興味深い慣習の一つである。

21世紀の魚：1999年に発見され、その後まもなくアクアリウムの世界に導入されたミクロラスボラ・ブルーネオン（M. kubotai）は、観賞魚としては比較的新しい種である。さらに、その学術的なアイデンティティが21世紀の遺伝子解析技術によって明確にされたという点においても、本種は現代を象徴する魚と言えるだろう。